Enteral Nutrition
栄養関連
栄養療法の重要性
経腸栄養法とは?
食物を摂取すること(食べること)は生命維持の為には当然の行為であり、健常時には嗜好や楽しみとして選ぶことが多いのですが、 病気や怪我を患った場合等は、治療行為が最優先され、“食べる”“栄養をとる”ということが重要視されていないことがありました。
ヨーロッパで出された研究によると、約20~30%の患者様が、入院時に低栄養の状態になっているとされ、 この低栄養の状態が続くと、合併症の危険性の増加、感染症への抵抗力の減少、身体的・精神的機能への障害、 回復の遅れなどの危険性があり、さらに生命を危機にさらすことにもなりかねません。※1 ※2
2003年11月、欧州議会(Council of Europe)※3は入院時の低栄養の頻度の高さを受けて、 病院における食事と栄養のケアに関する指針を発表しました。その中で、低栄養の原因をつきとめ、 患者様の栄養状態をスクリーニングにより的確に把握し、患者様おひとりおひとりの状態に適した栄養サポートを行うことを提唱しています。 もちろん、この間まったく栄養療法を実施していなかったわけではなく、 1968年米国の医師Dudrickらにより開発された中心静脈栄養法(体の中心静脈にカテーテルを留置し、 高濃度の輸液を投与し必要なカロリー等を補う治療法)や末梢血管からの輸液(いわゆる点滴)により水分や脂肪乳剤等必要な成分を補っていました。
この中心静脈栄養法により多くの生命が救われましたが、あらたな合併症や医療費の高騰等も出現してきました。
そこで、古くて新しい概念“If gut works, use it”(消化管が動くなら活用せよ)“を合言葉に 腸管の機能が残っているまたは使用できる場合は、腸管から栄養を吸収する方法が推奨されています。 この腸管から栄養を摂取する方法を“経腸栄養療法”といいます。 また最近のトレンドとして、手術後や集中治療室入室後早期(通常24~48時間が目安)※4 より栄養療法を開始する“早期経腸栄養療法”も行われています。
栄養療法とは
栄養を投与する方法には、大きく分けて2つあります。
ひとつは、末梢または中心静脈へ針を留置し栄養剤や水分を投与する経静脈栄養、 もうひとつは、鼻腔や胃瘻・腸瘻等に留置したカテーテルを介して栄養剤や水分を投与する経腸栄養に分けられます。
どちらの方法を選択するのかは、栄養療法を必要とする期間及び、腸管機能の有無(腸管から栄養が吸収できるか
図1栄養管理方法の選択
(佐々木雅也 経腸栄養の適応 内科領域 臨床栄養別冊 ワンステップ経腸栄養 医歯薬出版株式会社;2010,p2)
経腸栄養療法
腸管からの栄養の吸収が可能な場合では経腸栄養療法が第一に選択されます。
疾患により、咀嚼・嚥下(食物を噛み砕いたり、飲み込むこと)機能が弱い又は不足している場合は、食品をミキサー等で粉砕したり、 栄養剤をそのまま、あるいは増粘剤(トロミ剤)を利用し飲み込みやすい形状にしていただきます。
咀嚼・嚥下が機能しない場合には、経鼻カテーテルを鼻腔へ、また胃瘻(ペグ)・腸瘻を作成し、そのカテーテルを介して栄養剤や水分を補給します。
特に高齢者の場合、疾患の後遺症により麻痺等の出現により胃瘻(ペグ)・腸瘻を造設することが多くなっています。これらの治療を受けている状態から、 嚥下リハビリ等により、経口摂取が再度可能になる場合もあります。※6 また嚥下・咀嚼機能に障害がない場合でも、吸収能に問題のある場合や、特定の栄養剤で治療を受けている患者様が、経口あるいは経鼻カテーテルを自己挿入し栄養剤を摂取する場合もあります。※7
経腸栄養療法のメリット
経静脈栄養療法と比較して、経腸栄養療法のメリットとしては下記があげられています。※8
1. 腸管粘膜の維持
2. 免疫機能の維持(Bacterial translocationの回避)
3. 代謝反応の亢進の抑制
4. 胆汁うっ滞の回避
5. 消化管の生理機能の維持
6. カテーテル敗血症、気胸などのTPN時の合併症がない
7. 長期管理が容易
健常時と同じように腸管を介して栄養を吸収するため、生理的な機能が保たれ、感染に対する免疫能の維持が図れます。※9
経腸栄養療法が禁忌な場合は、腸管が機能しない(麻痺や閉塞等)場合や、先天的または治療により腸管が短くなっている場合等があげられます。
どんな場合でも経腸栄養が静脈栄養に比べて優れているということではありません。 大切なことは、患者様の栄養状態及び病状をスクリーニング(検査と診断)により的確に把握し、各々により適切な栄養療法を選択し実行することです。
経腸栄養療法のアクセス
経鼻カテーテル
右または左の鼻腔から、カテーテルを挿入し、そのカテーテルより栄養剤や水分を補給します。胃内への挿入はベッドサイドでも行えますが、確実に胃内に留置されているか確認が必要です。※10 誤嚥が気になる場合や早期の経腸栄養療法を行う場合は、カテーテルの先端を十二指腸に留置することもあります。
経鼻カテーテルを挿入している場合は、鼻翼に潰瘍をつくらないように注意する必要があります。 在宅治療として経鼻カテーテルの自己挿入を行う場合は、医師又は看護師より、正しい挿入方法および治療に関わる教育を受け実施することが重要です。
胃瘻・腸瘻
胃瘻カテーテルを経皮的内視鏡胃瘻造設術を行い留置します。
この治療法は1979年米国の医師Gauderer とPonskyにより報告された治療法です。 現在日本では高齢者を中心に約26万人※11程度患者様が治療を受けているとされています。 胃瘻・腸瘻にも適応と禁忌があります。(表1)※12
[PEGの禁忌]
PEGの絶対禁忌
① 内視鏡検査の絶対禁忌
② 補正できない出血傾向
③ 内視鏡が通過困難な咽頭・食道の狭窄
④ 胃前壁を腹壁に近接出来ない状況
PEGの相対禁忌
① 腹部手術、特に胃手術の既往
② 極度の肥満
③ 妊娠
④ 腹水
⑤ 増設部位付近の胃または腹壁の腫瘍性・炎症性病変
⑥ 著名な肝腫大
⑦ 門脈圧亢進
⑧ 腹膜透析
⑨ 出血傾向
⑩ 全身状態・生命予後不良
⑪ 一般内視鏡検査の相対禁忌
そのカテーテルの造設は基幹病院で行われ、その後は地域の病院または施設、在宅医にてフォローを行うことが多くなっています。 また必要に応じてカテーテルを交換することもあります。
ご使用されるカテーテルは、大きく4種類に分けることができます。どのようなカテーテルを選択するのかは、患者様にとってどの方法が安全な造設であるか、また造設後の治療法(介護が必要か?あるいはどのような栄養剤を利用するのか?)、患者様やそのご家族のニーズによって選択されると良いでしょう。
経腸栄養輸液ポンプ
経腸栄養療法を実施中、合併症として下痢を認めることがあります。下痢の要因はひとつではありませんが、その多くが“注入する速度”をゆっくりとすることでコントロールできるといわれています。※13
液体である栄養剤を注入する方法には、自然滴下もありますが、注入速度をコントロールしたい場合、あるいは正確に注入することが必要な場合は経腸栄養専用のポンプを利用します。
この経腸栄養用輸液ポンプを使用することにより、経腸栄養療法の合併症である下痢、嘔吐、誤嚥、及び誤嚥性肺炎発症頻度を低減させることができます※14 これらの合併症、特に誤嚥性の肺炎の治療に要する時間及び費用は少なくはありません。ヨーロッパでは、肺炎の治療のために患者様一人あたり2,000ユーロ(US$2,280)かかると報告されています。ポンプで経腸栄養を行うことにより誤嚥性肺炎等を予防し、治療のための時間と費用を減少させることができます。 また、2009年の ASPEN の Clinical Report では、経腸栄養には専用のポンプを使用し、また全ての患者にルーティンで使用するとされています。※15
日本の医療現場でも、NST(栄養サポートチーム)の活動の広がりとともに、施設内で経腸栄養用輸液ポンプを導入・活用し、患者様の治療への貢献および看護力のサポートをおこなっています。※16
そして最近では、術後あるいは受傷後早期の経腸栄養療法を実施する場合や人工呼吸器装着時には※17、低量から開始することが多い為経腸栄養用ポンプが役立ちます。
血糖値の維持
欧州では自然滴下では、改善できなかった様々な課題がポンプを使用することにより改善されています。まず、治療費の削減があります。※14
又、ある研究結果では、大多数の患者様が、研究終了後も自然滴下による栄養剤の投与よりポンプによる栄養剤の投与の継続を望んだという報告があります。※14
経腸栄養用輸液ポンプを使用し、下痢、嘔吐、誤嚥、及び誤嚥性肺炎の発症をできるだけ防ぐことは患者様により苦痛の少ない経腸栄養療法を提供し、QOLを向上させることができるのです。
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[参考文献]
< 引用参考文献>
※1 McWhirter J P, Pennington Cr,:Incidence and recognition of malnutrition in hospital. BMJ. 308: 945-8, 1994
※2 A.M. Beck, et.al.: food and nutritional care in hospitals: how to prevent undernutrition - report and guidelines from the council of Europe Clinical Nutrition 20 5; 455-460, 2001
※3 Council of Europe Resolution ResAP: 3, 2003(http://www.nutritionday.org/uploads/media/Resolution_of_the_Council_of_Europe.pdf)
※4 福島亮治:術後の早期経腸栄養の意義:臨床栄養Vol,110 No5: 490-494
※5 ASPEN Board of Directors: Guidelines for the use of parenteral and enteral nutrition in adult and pediatric patients. JPEN 17 suppl:ISA-52SA.1993
※6 矢賀信二:脳出血後の嚥下障害に対しPEGによる栄養改善が嚥下能力向上に効果的であった1 例.静脈経腸栄養 Vol.23: 366-367, 2008
※7 佐々木雅也: 経腸栄養の適応 内科領域 臨床栄養別冊 ワンステップ経腸栄養 医歯薬出版株式会社: 2, 2010
※8 丸山道夫: 経腸栄養療法の特徴と適応. 経腸栄養バイブル(丸山道夫、他編),日本医事新報社: 2-3 2007
※9 五関謹秀: 第三章 成人の経腸栄養管理、静脈・経腸栄養ガイドライン, 日本静脈・経腸栄養研究会編: 23-36,1998
※10 看護協会: 安全情報 医療・看護安全管理情報 No.8 Vol.422, 2002.
※11 社団法人 全日本病院協会: 胃瘻造設高齢者の実態把握及び介護施設・住宅における管理等のあり方の調査研究: 234,2011
※12 鈴木裕他:第1回PEGコンセンサスミーティング PEGコンセンサスミーティング より安全なPEGを目指して.在宅医療と内視鏡治療: 68-70, 2003
※13 宮澤靖:経腸栄養ポンプの有用性. ケースレポートⅡ, フレゼニウスカービジャパン, 2007
※14 Edward Shang MD, et. al: Pump-Assisted Enteral Nutrition Can Prevent Aspiration in Bedridden Percutaneous Endoscopic Gastrostomy Patients, Journal of Parenteral and Enteral Nutrition, 28(3), 180-183, 2004
※15 Robin Bankhead et al: Enteral Nutrition Practice Recommendations Task Force .JPEN 17, 2009
※16 比企直樹:経腸栄養用輸液ポンプの有用性と今後の課題 ケースレポートⅤ フレゼニウスカービジャパン, 2009
※17 日本呼吸療法医学会 : 栄養管理ガイドライン作成委員会 急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理ガイドライン 人工呼吸 第27 巻 第1 号: 116-117, 2010